中性脂肪のリスクを探る

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中性脂肪のリスクを探る

中川: 脂質異常症の治療はスタチンによるLDL-Cの管理を中心に考えられてきましたが、最適な治療方針は個々の患者背景および病態により異なります。近年、至適薬物療法(optimalmedicaltherapy)への意識が高まり、また様々な脂質異常症治療薬が上市され、治療の選択肢は広がっています。そのような現状を踏まえ、本日は残存リスクとしての高中性脂肪(TG:トリグリセライド)血症の重要性と、その治療意義について考えていきたいと思います。

残存リスクとしての高TG血症

山川:スタチン治療後の残余リスクについて、どのように考えていますか。

清末: スタチンを用いた多くの臨床試験から、LDL-C低下療法によって心血管イベントリスクが概ね30%低下することが示されていますが1)、裏を返せば、約70%のリスクが残されているとも言えます。まずはさらなるLDL-Cの低下を目指すことが先決ですが、スタチン不耐などを考慮すると、LDL-Cのみを治療ターゲットとすることには限界があるでしょう。そうした中で、高TG血症があらためて注目されています。
急性冠症候群患者を対象とした臨床試験PROVEIT-TIMI 22のサブ解析では、LDL-Cが70mg/dL未満に管理されていることに加え、TGが150mg/dL未満であると、リスクがより低下することが示されています(図1)2)
また、多施設共同研究EMPATHYのpost-hoc解析では、冠動脈疾患の既往がない日本人2型糖尿病患者において、ベースラインTG高値がスタチン治療下の主要心血管イベントリスクと関連していること3)、メタ解析からは、LDL-Cが管理されていてもTG高値であるとプラークが進展することも報告されています4)

石橋:最近のメンデルランダム化解析からも、高TG血症が心血管疾患の真のリスクファクターであることが示されています5)。遺伝疫学的な検討からもこのような知見が得られていることは、非常に興味深いです。

中川: LDL-Cが管理されている状況下においても高TG血症がリスクとなることは間違いなさそうですね。どのような患者さんで、より注意が必要となるのでしょうか。

木庭:メタボリックシンドロームを伴う場合は食後高脂血症を呈することが多く、TG管理が重要になると思います。

石橋:二次予防、糖尿病、慢性腎臓病、脳血管障害を有する場合も高リスクと言われる病態です。

(図1)中性脂肪およびLDL-Cと冠動脈イベントとの関係:PROVE IT-TIMI22

高TG血症と動脈硬化

中川:どのようなメカニズムで高TG血症と動脈硬化とが関係しているのでしょうか。

木庭:高TG血症の状態では、小腸由来のカイロミクロンや肝臓由来のVLDLといったTGリッチなリポ蛋白が血中に多く存在します。これらの中間代謝産物であるレムナントは、高い動脈硬化惹起性を有すると考えられています6)。また、TGはLDL粒子径を規定する因子の一つでもあり、LDL粒子径はTGと負の相関を示します7)。Framingham Heart Study Offspringのデータを用いた検討では、メタボリックシンドロームの診断基準5因子の保有数の増加とともに、TGが上昇、HDL-Cが低下、粒子径の小さいsmall LDLが増加、粒子径の大きいlarge LDLが減少することが示されています(図2)8)。ARIC studyでは、冠動脈疾患のリスクと関連するのは粒子径の大きいlarge buoyant LDL-Cの増加ではなくsmall dense LDL-C(sd-LDL-C)の増加であることが報告されており9)、安定冠動脈疾患の高齢男性患者を対象としたわれわれの検討でも、sd-LDL-Cが高値であると採血後5年間の心血管イベントが有意に多いことが示されています10)

中川:現状、日常診療においてsd-LDL-Cを評価することは難しいかと思いますが、どのように考えたらよいでしょうか。

木庭:Non-HDL-Cが高く、かつTGが非常に高い場合はsd-LDL-Cも高値であると考えられます11)。このような方には積極的に介入する必要があるかもしれません。また、食後高脂血症を呈する場合は、sd-LDL-Cやレムナントが高値であることが多いです12)。清末:最近、食後高脂血症が心血管疾患のリスクであるという報告も増えてきました。糖尿病を合併する場合は血糖値と一緒に食後のTG値を見てみる等、注目しています。

石橋:脂質異常症の厳密な診断には空腹時採血が必須ですが、スクリーニング時には、非空腹時TGの検査が有用な場合があるかもしれません。

(図2)メタボリックシンドローム構成要素数と血清脂質の関係

高TG血症治療の現在と未来

中川:ここまでで残存リスクとしての高TG血症についてディスカッションしてきました。わが国におけるTGの実際の管理状況はいかがでしょうか。

石橋:国民健康・栄養調査では、TG150mg/dL以上の割合は男性40.3%、女性26.5%と13)、比較的頻度の高い病態と言えます。しかし、わが国におけるスタチン治療下の高コレステロール血症患者のTGの管理目標値(150mg/dL未満)到達率は、50%程度に留まるという報告もあります14)

中川:そうした中、高TG血症の治療薬として「パルモディア®錠0.1mg」(一般名:ペマフィブラート)が登場しました。ペマフィブラートはどのような薬剤でしょうか。

石橋:ペマフィブラートは、治療の標的遺伝子の転写を選択的に調節し、その他の遺伝子の転写には極力影響しないという、選択的PPARαモジュレーター(SPPARMα:selectivePPARαmodulator)15)を目指して創薬されました。第III相臨床試験では、スタチンで治療中の高脂血症患者における有効性と安全性が確認されています(図3)16,17)

清末:私は以前、創薬研究に携わっていたこともありますが、核内受容体をターゲットとする薬の開発は困難を伴うもので、SPPARMαはチャレンジングな薬剤であったかと思います。今後さらなる臨床での有用性を示す結果が得られることを期待します。

木庭:脂質代謝に関連した遺伝子にターゲットを絞るというコンセプトは、合併症や他剤との併用による処方制限という観点でも理にかなっていると思います。石橋:添付文書においては、2018年10月に腎機能に関する臨床検査値に異常が認められる患者におけるSPPARMαおよびフィブラート系薬剤とスタチンとの併用に関する「原則禁忌」が解除され、これを「重要な基本的注意」に追記する形に使用上の注意が改訂されています18)。ただし、クレアチニンの上昇や筋障害には常に注意する等、慎重な経過観察が必要なことはこれまでと変わりありません。

中川:特に生活習慣病に関する治療薬は、安全性あっての有効性であるということを忘れないよう、最適な薬剤の選択をしていきたいですね。本日は実りある議論をありがとうございました。

(図3)ペマフィブラートの中性脂肪低下作用 第III相HMG-CoA還元酵素阻害薬で治療中の患者を対象とした長期投与試験

※メンデルランダム化解析:遺伝子多型を用いてランダム化する遺伝疫学的な手法。例えばTGに影響を与える遺伝子多型と心血管イベントの関係を解析することで、TGが心血管イベントのリスク因子になるかを検討する。

引用文献

1)Libby P.: J Am Coll Cardiol. 2005; 46(7): 1225-1228.
2)Miller M. et al.: J Am Coll Cardiol. 2008; 51(7): 724-730.
3)Tada H. et al.: Eur J Prev Cardiol. 2018; 25(17): 1852-1860.
4)Puri R. et al.: Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2016; 36(11): 2220-2228.
5)Jansen H. et al.: Eur Heart J. 2014; 35(29): 1917-1924.
6)Nordestgaard BG.: Circ Res. 2016; 118(4): 547-563.
7)Hirano T. et al.: Atherosclerosis. 1998; 141(1): 77-85.
8)木庭新治 他: 脈管学. 2006; 46(4): 441-448.
9)Hoogeveen RC. et al.: Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2014; 34(5):1069-1077.
10)Sakai K. et al.: Geriatr Gerontol Int. 2018; 18(6): 965-972.
11)Hayashi T et al.: Lipids Health Dis. 2017; 16(1): 21.
12)Tsunoda F. et al.: Circ J. 2004; 68(12): 1165-1172.
13)厚生労働省 : 平成29年(2017年)国民健康・栄養調査報告
14)寺本民生 他: Ther Res. 2013; 34(4): 455-483.
15)Fruchart JC.: Cardiovasc Diabetol. 2013; 12: 82.
16)興和(株)社内資料:第III相HMG-CoA還元酵素阻害薬で治療中の患者を対象とした長期投与試験(承認時評価資料)
17)Arai H. et al.: Atherosclerosis. 2017; 261: 144-152.
18)パルモディア錠添付文書,パルモディア錠使用上の注意改訂のお知らせ(2018年10月)